「平穏死」のすすめ

 特別養護老人ホームの常勤配置医が介護現場の最前線から本音を発信している本。

 自分が疑問を持っていること、自分が「医療現場では、無理に延命するのではなく、自然に死ねるようにする方ががいいのでは」と思っていることなどに、答えを出してくれる内容だった。現場のベテラン医師が書いているだけに説得力もある。2010年に単行本として出版されており、出版からもう10年が経つ。この本の存在にこれまで気づけなかったのは、我ながら意外だった。 

 

 「高齢者で、嚥下機能が低下し、自分の口で食べられなくなった場合、その人の生命の限界がきていることが多い。そういうときは、胃ろうをして経管で栄養注入したり、無理に食べさせたりするのではなく、自然に死に向かうのを看取るのが良い。それが平穏死につながる」というような、きわめて当然と思われることが、現代の医療現場とか介護の現場では10年前はまだ主流になっておらず、平穏死を推進する方針で特別養護老人ホームを運営することが難しい(難しかった)という現実が記載されていた。

 この本の著者である石飛氏と、高齢の医師で有名な日野原重明氏と、川島みどり氏は、2010年の時点で、そのような状況を変革すべく強いメッセージを放っているとのことだった。全然知らなかった。

 いかに「平穏」に死を迎えられるか。老衰による死をどのように普通のこととして受け止めていくのか。今後数十年で「平穏死」の概念が改めて世間のスタンダードになってほしい。昔は、たぶんそれが普通だったと思うのだが・・・。

 私自身、痴呆症になった後、息子たちや、自分の息子たちの世代の世話になって生きながらえるのは不本意なので、痴呆症になる前に、何らかの形で、出来るだけ周囲に迷惑をかけずに死を迎えられるような準備をしたい。そういったことが普通にできる法制度や社会の仕組みの整備は、あと20年程度で実現されるのだろうか。それが不安でならない・・・。