google日本法人名誉会長 村上憲郎氏の講演その3

だいぶ間が空いたけれど、続きを書く。これで一旦終わり。

  • 日本型スマートグリッドとは、電力網と情報網が束ねられたもの。論理的に束ねてある必要がある。
  • スマートグリッドに関連して、日本においても、グーグルは各電力会社などと協議をおこなってきていた。
  • 各家庭での電力消費データを取得する装置としてスマートメーターというものがある。日本ではまだ少ないが、今度関東で電力会社が運用を開始する計画がある。
  • 日本ではまだ普及していないので、スマートメーターを販売するビジネスには大きなチャンスがある。
  • 日本の送電網は完成度が高く、優れている。国民1人当たりの停電経験時間(年間)は米国90分に対し日本7分。米国には3000の電力会社があり、日本の電力会社は10社程度。この点は両国間で事情が全く異なる。
  • 日本の送電網は完成度が高いので、あえてこれをわざわざ崩す必要はない。
  • 日本では、各電力会社が各地域の電力を統括する体制は維持(系統グリッド)しながら、地域での電力の地産地消を実現する形(コミュニティグリッド)がつくられていくことになるだろう。全体をオープンにするのではなく、系統グリッドはクローズドで、コミュニティグリッドをオープンで運用するということ。系統系グリッドからコミュニティグリッドには一方向のみの送電だが、コミュニティグリッド同士は双方向でやりとりできるというもの。(下図は私が勝手に描いたイメージ)

  • コミュニティグリッドの情報網はインターネットなので、将来、電気につながるものは全てインターネットにつながる。
  • これからは「スマート」という言葉が流行る。コミュニティグリッド(電力+ネット)で繋がるスマートコミュニティ、という言葉が既にある。
  • コミュニティグリッド上でのアプリケーションはまだ未知数。この分野でキラーアプリを抑えると大きなビジネスになるだろう。インターネット上で展開されてきた人to人のコミュニケーションが発展し、物と人、物と物とのコミュニケーションが広がっていく。
  • まずは家庭での電力消費の見える化にとりくむ。このための Google Power Meter というサービスが既にある。
  • Google Power Meter に必要なSmart Meter の要件は、「無線または有線LANのInterface」「ネット経由のデータアップロード機能」「電力会社との情報共有の仕組み」。
  • Googleは既に、ドイツでスマートメーターを共同開発している。
  • Smart Meter でなくても、配電盤から電力の動きを読み取れる装置をつくれば、Google Power Meter を活用できる。


ここまでで村上さんの講演は終わり。この後、「Googleのナゾに迫る」ということで村上さんへのインタビューがあった。その内容も面白かったので、ついでに書いておく。

  • 村上氏がGoogleに入社したのはヘッドハンティングによる。
  • 団塊の世代で経営/IT/英語の3つに精通している人間が日本には200人ぐらいしかおらず、この200人でITのトップマネジメント層がぐるぐると入れ替わってきたのがここしばらくの流れ。だからワリと声がかかる。
  • GoogleのコアテクノロジーのひとつがAI(人口知能)。この分野に村上氏はもともと関係がありGoogleに興味を持った。(Natural Language Processing)
  • 自分にとって最後の仕事だろうと考えた。
  • Google本社での面接時、トイレで小便をして、並んだ男を見るとエリック・シュミットだった。そこから面接がスタート。
  • シュミット氏に「なぜオレなんだ?最近の技術はもうわからないがそれでもいいのか」と尋ねると「いや、私も最新の技術はわからない。だけどお前ならわかったフリはできるだろう」と言ったらしい。「何をしたらいいのか?」と尋ねると「お前はたくさん失敗をしてきただろう?我々年寄りの仕事は、我々と同じ失敗を若い連中がやらかさないようにみていることだ」とシュミット氏。それなら出来る、ということで就任が決まった。10分程度のインタビューだったらしい。
  • 村上氏の最初の外資はDEC。それとGoogleの雰囲気は似ている。
  • 「日本の会社との違いは何か?」という質問に対しては「Googleの場合はずっとプログラマー。日本は課長、部長、社長とあがっていく。そのあたりが違う」「社員は放し飼いだが、360度評価にさらされる」
  • 「採用の基準は?」という質問に対しては「能動的であること。上手くいったプロジェクトは大体、20%ルールで自律的に始まったもの。そういう、自由な活動から物事が生まれていくことに耐えられる人」「サービス精神が旺盛なこと」「めちゃ頭の良い人。ハッカーみたいな人しか採らない」
  • 世界中から優秀な人材を採用する。本社のマウンテンビューにはインド人と中国人が多く、社内食堂のメニューも中華料理とインド料理が多い。今は3食とも社内で提供している。
  • コンピューターサイエンスの世界では、優れた研究のためには優れたハードウェアが必要なので、Googleの環境はサイエンティストたちにとって魅力的になっている。
  • 「仕事の進め方について」「アイディアは頭で考えず、クチに出す-か、手を動かして書き出す」「思考よりは作業をすべき」
  • 日本で英語をしゃべれるひとが本当に少ない。これは悲しいことだ。米国開催のカンファレンスに出かけたとき、同時通訳を必要としているのはもはや日本人だけ。台湾もインドもその他の国も、みんな通訳ナシで参加している。英語がしゃべれないのはITの世界では絶望的な状況であることを意味する。
  • 「いまビジネスをやるなら何か?」との質問に対して「電気自動車。日本ではほとんど参画していないが、世界ではたくさんのベンチャーが電気自動車のマーケットに参入しようとしている。電気自動車の登場によって自動車の世界で起ころうとしているのは、かつてIT業界でPCが登場したときと同じ動き。つまりメインフレームを自社で全部つくって販売するというモデルから、各パーツを組み合わせてユーザーが使うという時代に移りつつある。メインフレームの会社が、いまのトヨタ、ホンダ、GMなどに相当する。そしてDELLやHP、インテルなどが、いまから出てくるであろう電気自動車関連の会社。IBMのように生き残る会社ももちろん出てくるだろうが、日本では今は日産ぐらいじゃないか。


…ここまで。仕事に追われてなかなか更新できなかったが、ようやくまとまった。


電気自動車の話は、本当にそうかなぁと疑い半分だ。20年後どうなっているのか…。もう50年以上も歴史のあるものが、そう簡単にスイッチされてしまうものなのだろうか。安全試験に必要なコースの確保、交通規制への対応、アフターサービス網の充実、インフラ網の整備など、新参業者にとってはかなり高い参入障壁となるものがたくさんあるように思うのだが。意外とそうでもないのかな。


たぶん、スマートグリッドは、20年後には当たり前になっているんだろう。でも10年では普及しきらないと思う。
電気自動車の話にしても、10年前(2000年ごろ)に慶応義塾大学で試作品があって、乗ったことがある。あれから10年たって、ようやくホイールにモータが入った形(当時試作されていた形)の自動車が現実に販売されようとしている。そう簡単には世の中変わらないのだ。


10年後には、電気自動車の新興企業が存在感を放つようになり、スマートグリッドで儲ける会社が出始めているのだろう。10年度、どうなったかふりかえって検証するのが楽しみだ。