ひさしぶりに小説を一気に読んだ。「テロルの決算」という物騒な名前のノンフィクション小説。

新装版 テロルの決算 (文春文庫)

新装版 テロルの決算 (文春文庫)

戦中、戦後の激動期に生きた一人の政治家の生涯と、1960年に白昼の演説会でその政治家を刺殺した一人の少年(当時17歳)とを描いた作品。著者名とタイトルに興味をひかれて手にしてみたところ、実話だということでびっくりしてつい買ってしまい、予想外に面白かったので勢いで読んでしまった。

物語に感動するというより、現代では考えにくい当時の情勢や登場人物の行動の面白さに興味を惹かれる作品だった。

<メモ>

  1. 当時の右翼的思想団体の行動が部分的であるにしても細かく描写されていて、面白い。
  2. 戦中と戦後の大衆の変わり身が非常にはやい。この点、城山三郎の作品などでもテーマになっていたりする部分だが、いまだに理解できない。
  3. 殺害された政治家は左翼的活動家であるにもかかわらず、天皇への敬愛は強かったという点も面白い(私の小学校の担任教師も左翼的だった。その教師からは天皇家への敬愛が全く感じられなかったのと対照的な印象だった)。
  4. 戦中から安保闘争の時代が終わるまで、デモで死傷者が出ることは当たり前のことだったようだ。いわゆる官憲によるリンチのようなことも珍しくなかったらしい。こういった事実は現代からは想像しがたいが、間違いなく事実であり、いつもびっくりする。
  5. 政治家が殺害されたタイミングが選挙に絡んでいたため、周辺の政治家は選挙への影響を考えて事件直後から対策に追われる。このあたり描写が現実的で、世知辛くも面白い。
  6. 事件の後、少年の通っていた大学は、少年の在籍した事実を否定した。一方、少年の卒業した高校は、少年の卒業した事実を隠しも否定もせず、変わらず父母に接した。教育機関として正しい態度なのはどちらだろうか・・・。
  7. 少年が殺人者になった後、即座に、その父親の友人たちから、少年の家族を世間(マスコミ)から守るための支援の手が差し伸べられている。物語の本筋とは関係ないが、そのような友を持てるかどうかが豊かな人生といえるかどうかの分かれ目だと感じた。