危機の宰相

危機の宰相 (文春文庫)

危機の宰相 (文春文庫)

 同じ著者の「テロルの決算」が面白かったので、なんとなく買ってみた本。期待はよい方向に裏切られた。「テロルの決算」より重厚で、面白い。ノンフィクションの作品として傑作だと思った。

 1960年〜1964年まで総理大臣だった池田勇人という人物と、彼が唱えた「所得倍増論」に関して、緻密な取材で描き出している。所得倍増論がどのように生まれ、育ち、展開されていったのかが明確にされている。表現が決して堅苦しくなく、池田勇人とその周辺の人物の人生を丁寧にたどった小説として、楽しみながら読める。

 日本の政治経済を考える際の必読書ではないだろうか。大学時代に読んでおきたかったが、なぜか当時の私のアンテナにまったくひっかからなかった。

 城山三郎に近いものを感じるが、よりいっそう事実に緻密な取材がされている印象があり(関係者が存命中なので当然といえば当然ではある)、ノンフィクションという立場が明確で、推測や脚色の表現が少ない。

 沢木耕太郎作品は今後も継続して読むことにする。